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上野宮司からのメッセージ

「一日二十リットルの水」

 ある番組で深く考えさせられたことがありました。どこの国か定かではありませんが、黒人のお母さん達が頭に甕(かめ)を乗せて、毎日一時間歩いて水を汲みに行くという映像でした。
 この甕一杯の二十リットルが五人家族の一日分の水だといい、小さな切り株を台に、一滴も無駄にしないように何度も台の上からわずかな水も掬い取りながら料理を作っていました。
 一人の若いお母さんに取材班が尋ねます。「もっと水が欲しくないですか?」と。すると彼女は、きれいな目で一言「これが神様が私たちに下さった量なのです」と答えたのです。私は、この言葉に射抜かれて全身に衝撃が走りました。
 生きるために必要な水さえも十分にない厳しい環境にありながらも、彼女は身の境遇を恨むではなく、見事な言葉で神への感謝と自分の存在を語ったのです。
 日本人一人が一日に使う水の量は、生活用水だけで約三百リットル。安易に比較することはできませんが、豊かな自然に恵まれた熊野で社家として生まれ育った私は、その恩恵に対して「感謝」という言葉をよく用い、「自然に感謝する心が大切」と説いてきました。素直な心でそう思っているのですが、この母親の珠玉の言霊にふれて、今まで自分が口にしてきた感謝という言葉とは異質の重みを感じたのです。
 天からの恵みを「神様が私たちに下さった量なのです」と謙虚に受け入れ、まさに自然と共生しながら暮らす彼女たちの気高さの中に、私は一神教と多神教の壁をこえた「神」を見たような気がしました。もし彼女と同じ境遇におかれたら、果たしてあのような言霊が私にも授かるだろうか。
 水だけでなく、今ある自然の恵みをもっと大切に思い直し、生活を改めていかなければと強く思いました。

天地正大 甦る日本

 謹んで新春の賀詞を奉ります

 昨年は東日本の大震災と放射能漏れ事故、タイの大洪水、そして熊野も百二十年ぶりともいわれる大水害に見舞われるなど、災害に明け暮れた年となりました。
当大社では、幸いにも御社殿や御神木「なぎ」、国宝等に被害は及びませんでしたが、熊野川近くにあった御旅所が流失し、御船島も水没して様相が一変、悲惨な状況となってしまいました。両所とも古代から祈りが捧げられてきた極めて重要な聖地ですから、一日も早く元の通りに復元していきたいと願っております。何卒皆様の御協力を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

自然が自ら豊かな自然を破壊し、人間生活を破壊してゆく大きな力を目の当りにして、辛い、悲しいという感情とは異なった言葉にならない「無常」を私は感じました。
自然に感謝する心が大切と唱えながら、一方で自然に対し取り返しのつかない罪を犯し続けてきた人類の奢りが、天を怒らせていると思えてなりません。
楽を求めて自然を犯す・・・人間も自然の一部であることに早く気づいて生活を改め、先人から受け継いできた国風に倣って天然の恵みを尊び、今こそブータン国王が最高の賛辞で讃えてくれた「日本人の誇り」を取り戻す時です。

 今年の干支は初め金龍を描いていたのですが、水害後、今求められているのは完成された至高の姿より、困難をも乗り越えて天を目指す、勇気に溢れた青龍の姿だと気づきました。また、天上には揺るぐことのない日本の魂を「梛の御鏡」に表わしました。
穏やかな安らぎの年が訪れますよう只管願いつつ、皆様のご多幸をお祈り申し上げます。

弥 栄 

   平成二十四年 元旦

熊野速玉大社宮司 上  野    顕  


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