熊野の山道を歩くことが、遠くスペインの巡礼路へとつながります。「二つの道の巡礼者(共通巡礼)」は、熊野古道とサンティアゴ・デ・コンポステーラの道で、それぞれ定められた条件を達成した人を認定する取り組みです。二つの土地に向き合う旅として、道のりと参詣の意味をあわせて考えてみましょう。
二つの道、一つの精神性
田辺市とスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ市は観光交流協定を結び、共通巡礼を国際共同のプロジェクトとして進めています。熊野とサンティアゴは一万キロメートル以上離れ、どちらの巡礼路にも千年以上の歴史があります。土地や文化が異なっていても、自分を見つめ、自然とつながり、人々と体験を分かち合う精神性が、二つの道を結んでいます。
認定を考えるときは、熊野側とサンティアゴ側の条件をそれぞれ確かめることが出発点になります。どちらか一方を歩くだけではなく、両方の道で条件を満たす巡礼です。熊野で歩く道を選ぶ際にも、その先にもう一つの巡礼路があることを思い浮かべると、旅の見通しが広がります。
熊野古道側の条件
田辺市熊野ツーリズムビューローの共通巡礼案内では、熊野側は次の五つからいずれか一つを達成することとされています。巡礼は徒歩に限られ、自転車や馬は対象となりません。
- 滝尻王子から熊野本宮大社まで、三十八キロを徒歩で巡礼します。
- 熊野那智大社から熊野本宮大社まで、三十キロを徒歩で巡礼します。
- 発心門王子から熊野本宮大社までの七キロを徒歩で巡礼し、あわせて熊野速玉大社と熊野那智大社に参詣します。
- 高野山から熊野本宮大社まで、六十五キロを徒歩で巡礼します。
- 扇ヶ浜潮垢離場と鬪雞神社に加え、大辺路ルートの白浜町~那智勝浦町間の二か所以上を訪ね、熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社に参詣します。
発心門王子からの条件では、七キロを歩くことに加えて速玉と那智への参詣が必要です。大辺路の条件も、浜や道中の訪問先と三山参詣を組み合わせています。距離の数字だけで選ばず、歩く区間と参詣する場所を一緒に書き出しておくと、条件を確かめやすくなります。
サンティアゴ側は、徒歩または馬で少なくとも最後の百キロ以上、あるいは自転車で少なくとも最後の二百キロ以上を巡礼することが条件です。移動方法の扱いは熊野側と異なりますので、二つの道の条件を分けて確認してください。
共通巡礼手帳とスタンプ
共通巡礼手帳は両面構成で、片面が熊野古道、もう片面がサンティアゴのスタンプ台紙です。道中で押印し、歩いた道のりを記録していきます。中辺路のスタンプは主に王子や神社の木製スタンプ台に収納されています。押し終えたら元の場所に戻し、木戸を閉めます。
熊野側の達成には、熊野本宮大社の札所の横にあるスタンプ台での押印が必要です。サンティアゴ側では、大聖堂の近くの巡礼事務所で巡礼証明のスタンプを受けます。道中の記録と達成時の押印をそれぞれ意識しておくと、手帳の役割がわかりやすくなります。
潮垢離の浜から歩き始める
熊野詣には、山中に入る前に身を清める習わしがありました。滝や川では水垢離、温泉では湯垢離、浜では海水を浴びる潮垢離を行ったとされます。かつて「口熊野」と呼ばれた田辺は、紀伊路から中辺路・大辺路へ分かれる要所でした。
江川地区の出立浜では、参詣者が山へ向かう前に潮垢離をしたと伝わります。当時の場所は地形の変化で児童公園となり、その文化を伝える場として扇ヶ浜潮垢離場が設けられています。共通巡礼の大辺路の条件にこの浜が含まれることは、道を歩く距離とともに、巡礼の始まりにも目を向ける手がかりになります。街道の成り立ちは熊野街道縁起もあわせてご覧ください。
二〇二六年のECTNアワード
田辺市熊野ツーリズムビューローの二〇二六年九月二十五日付発表によれば、九月二十四日にギリシャのスキアトス島で開かれた第十九回ECTNカンファレンスで、共通巡礼が一般投票賞に選ばれました。全カテゴリーの最終候補から、閲覧者・旅行者・市民のオンライン投票で一つを選ぶ賞です。
ECTNアワードは二〇一四年から続く欧州の文化観光賞で、一般投票賞は審査員賞とは別枠です。二つの道を達成する体験と、その物語を分かち合う取り組みが、文化観光の場でも紹介されています。熊野の行程を考える際は、熊野街道を歩くを手がかりに、道と参詣先のつながりをたどってみてください。